経済政策の見直しは本当に必要ないのか?

By makoto, 2018年4月8日

9月の総裁選を前に経済政策に関する政策論争も活発化しそうです。

石破茂・元幹事長は4月6日付の記事で「財政・金融政策の激変策は採らない」という趣旨の発言をしました。

ここ最近の発言を総合すると石破氏の経済政策は

  • アベノミクスは否定しない(短期的に変更は考えない)が現在の財政拡大、金融緩和政策には限界があるという認識。
  • 今後の経済政策の鍵は地方創生。

という立場のようです。

つまり、すぐに財政再建に舵を切るということもないが現在のアベノミクスで必要な長期的経済成長は得られないので、地方創生をメインの経済政策に掲げるということのようです。

アベノミクスの現状を世界の経済学者はどのように見ているでしょうか?2016年の国際金融経済分析会合に招かれ意見を述べたクルーグマン教授の最近の論文(It’s Baaack, Twenty Years Later)をみてみましょう。

いわゆる3本の矢に対する評価は財政出動に関しては実際は若干緊縮気味だったとの評価、構造改革は判断が難しい、しかし大胆な金融政策で2%インフレターゲットを掲げたことと、その成果は高く評価しています。

しかし、金融政策に関して当初予想してないなかった問題点についても述べています。

クルーグマンの想定は、財政出動とインフレ期待の変化で経済が不況から脱却すれば流動性の罠からも抜け出せるということでした。しかし景気が回復局面に入りバブル景気を超えた今でさえも流動性の罠から日本経済は抜け出せていない。現在の状況としては、人口減少を理由とした長期停滞に日本経済は入っており、恒常的にマイナスの実質金利を必要としている可能性があるということです。

ここから導き出せるクルーグマンなどの経済学者が示唆する今後の経済政策は

  1. インフレターゲットを4〜5%程度に引き上げる。
  2. 財政出動を積極的に行い、なおかつ増税で穴埋めしないとして財政面からも「インフレ期待」を助成する。

という二つがメインになると思われます。そしてこれら二つを実行しようとすれば現状の経済政策からの「激変策」といえます。

石破氏の経済政策は現状の金融・財政政策であるアベノミクスを当面踏襲しつつ、構造改革として地方創生に力を入れるというものです。ただアベノミクスの第3の矢もそうですが、構造改革というのは経済政策としては規模も時間軸も金融財政政策とは大きく違ってきます。基本的には構造改革は不断の努力を持って多くの分野で進め続けなければいけない課題ではあるものの、中短期で考えると金融財政政策の代替にはなり得ないと考えるのが妥当かと思われます。

そう考えると、具体的な経済政策としてはリフレ政策を推し進めてきた安倍首相には上記の急進的なインフレ目標を掲げる金融財政政策にシフトする選択肢がありますので、政策論争で石破氏との経済政策での違いを強調できるでしょう。

ただでさえ、現職の総理は今までの実績と政策の継続を訴えることができる上に、現職が対立候補より先進的な政策をチラつかせることができれば(つまりアベノミクスには進化系があると言うだけで)、変化を望む層にも訴求できるわけで経済政策論争では有利な立場に立てると思われます。

またこの急進的な政策は安倍首相が採用しなくても、野党が採用することも考えられます。伝統的にリベラル勢力は緊縮財政に反対してきて、インフレと雇用のトレードオフでは雇用を選好しがち(つまりインフレを許容する)からです。なにより今のところほとんど政策的柱の無い野党勢力ですから政権との違いを出せる経済政策を持つインセンティブは高いです。野党がより急進的政策を唱える状況になると、やはり石破氏の政策的立ち位置は全体像ではなかなか理解されにくものとなるでしょう。

インフレ政策は不確実な富の再分配や一部の資産価格をバブル的に上昇させることなど多くの問題を含んでいますので、決して安易に選択されるべき政策ではありません。しかし、一方で日本経済の回復期が長期に渡っているにも関わらずインフレ率が低位に留まっていることを考えると、当初のアベノミクスの想定が修正されるべき時期に来ているのは明らかです。現職の総理総裁に挑戦するならば、もう少し大胆な政策を提示する姿勢が重要かと思われます。

3 Comments

  1. 一本松正道 より:

    非常に良い議論だと思います。但し、移民政策や資産国の罠の問題も合わせて議論しないと総合的な経済政策の議論としては迫力不足だと思います。

  2. 高橋 より:

    日本政治最大の悲劇は、
    リベラルを自称する野党サイドが「緊縮・アンチ金融緩和」路線を採用し続けていることに尽きると思います。立憲民主党も、若田部副総裁反対に見られるように、当初の金融緩和容認路線を早くも事実上放棄しました。

    野田政権末期に顕著ですが、財政均衡・財政「健全化」が、雇用・経済成長をすっ飛ばして、あたかも政治家の美徳として扱われることがしばしばなのです。

    日本政治の健全化のためには、他の分野に興味・関心がある政治家であっても、最低限の経済知識を身に着け、自分の理想社会と、それを実現するための経済政策をセットで把握することが喫緊の課題です。

  3. 一般庶民 より:

    「伝統的にリベラル勢力は緊縮財政に反対してきて、インフレと雇用のトレードオフでは雇用を選好しがち」というのは、松尾匡先生がご指摘されていますが、ヨーロッパ諸国での話ですよね。
    日本におけるリベラル勢力は、2コメの高橋さんもご指摘されておりますように、その正反対です。
    日本のリベラル勢力が舵を切るには、今より議席数が半減し、国民から完全にそっぽ向かれている流れにしないとなりません。そうなることで、自分たちの政策の何が間違いだったのか、自省を促すことになります。

    それと本筋から離れますが、消費税の影響が大きすぎますね。
    ネット上で消費税のことを「セルフ経済制裁」と言う人がいますが、実際そうですよね。
    来年からは「消費するたびに10%の罰金を科す」わけですから。
    しかも10%というのは、1つの区切り、大台に乗りますので、心理的負担は相当大きくなります。
    プロ野球の世界でいえば、打率2割8分(28%の確率でヒットを打つ選手)の成績は、「よくやった」という評価になりますが、打率3割(30%の確率でヒットを打つ選手)の評価は「一流選手」なのです。
    たった2%ではありますが、このように大台に乗るというのは評価を激変させます。
    消費税も同様で、二桁の大台に乗ると、想定以上に財布の紐が固くなる可能性が高いです。


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