ポピュリズム時代の総裁選

By makoto, 2018年9月22日

現職に挑戦するという激しい戦いの構図

 

自民党の総裁選が終わりました。結果はすでに報道されている通り、安倍首相が3選を決めましたが、石破氏の得票数も事前の予想よりも多く、自民党内外に少なからずの驚きがあったのではないでしょうか。

今回の総裁選は15年ぶりに現職の総裁がいる選挙という構図になったことから、両陣営ともに選挙戦活動に熱が入り、ときに厳しい言葉の応酬も見受けられました。とくに現職の首相に「次期首相有力候補」が挑戦するという構図は1999年におこなわれた小渕首相に加藤紘一元幹事長が挑戦した選挙戦を彷彿とさせます。現総裁からすれば自分が辞めると言っていないのにわざわざ立候補して挑戦してくるのは、不信任を出すのに等しい行為であり心中穏やかではありません。また挑戦する側もその候補を応援する側も現職の総裁に挑むというのは選挙後の扱いを考えると相当勇気が必要です。

今回の総裁選は少し事情が複雑で、そもそも「現職を大切にする」という不文律があると、国政選挙で負けない限り長期に渡って政権が自動的に続くことになり、中選挙区制のもと衆院で自民党がほぼ常に過半数を維持していた時代には新陳代謝を促す別の仕組みが必要でした。このため総裁任期は最長2期までとして多選を禁止するシステムでした。この総裁最長任期を2期6年から3期9年に延ばすよう2016年に党内ルールが変更されました。当時すでに派閥を結成して次期総裁選に意欲を示していた石破氏からするとこれは非常に困る変更だったはずです。しかし小選挙区制になり自民党が常に過半数を取れる環境ではない中、国政選挙で勝利している総裁を党内の任期を理由に交代させるのもおかしいということと、総裁選が行われればそれに立候補して正々堂々戦えば良いというロジックで総裁任期延長は受け入れられました。

このような背景を鑑みると、現職の総裁がいるから立候補をした時点で即反逆者扱いというのは少し酷でしょう。しかし一方でやはり実際に総裁選を行い、現職総裁に党内有力者が対抗するという選挙戦を終えて感じるのは選挙は「戦い」であり、「戦い」のあといくら「ノーサイド」といっても少なからずしこりは残ってしまうということです。

 

「組織内の戦い」という観点から見た今回の総裁選

 

総裁選は他の選挙と違い、一つの組織内におけるリーダーを仲間内で決定するための選挙です。いつもは仲間である同じ党の国会議員と党員の票を争うわけです。一歩間違えれば分裂の火種となりかねません。

派閥が強かった時代、自民党の総裁選は自分の派閥の大きさが勝敗を決しました。そして自派閥単体では過半数を取れないので、他派閥からの協力をいかに取り付けるかの勝負でした。党員による投票というのはその比率などがよく変更され影響力もその時々です。特に複数が立候補している場合、上位2名による決選投票が国会議員だけで行われる場合は、結局は勝負を決するのは派閥単位の戦いになります。

国会議員が大枠を決める総裁選というのは悪い言い方をすると、国民や党員の意識と離れた人物を選出してしまう可能性がある一方、良い言い方をするとポピュリズムに流されにくいとも言えます。

民主党が実質的に解体されてしまった現在の日本においては、自民党以外は色々な意味で「カリスマ性主導型」の政党がほとんどです。つまり一方で文字通りの宗教・強いイデオロギーを母体とする少数政党があり、もう一方でカリスマ性のあるリーダーにより創設された「第3極政党」とその系譜に分けられます。これらの党では実はリーダーを選ぶ内部の選挙を党員票を含んだ選挙で実施すると支持者の分裂を引き起こしてしまい、実質的に不可能です。

公明党や共産党では代表が長期にわたり連続再選されてますし、みんなの党、維新、希望の党などオーナー的党首が辞めると政党として実質的に持続成長できなくなるなど、支持基盤を分裂させることなくリーダーを選挙で交代するなどというのは実は非常に難しいのです。

「国民政党」となり、それなりの開かれたガバナンスを持ち、今回のように党員を巻き込んだ総裁選をおこなうことができるのは今日では実質的に自民党のみと言えます。開かれたガバナンスを保ちつつポピュリズムの波に飲み込まれないようにするという政党としての成熟ぶりと政権を担っていく「責任政党」という矜持があるからこそ可能なのでしょう。

 

ポピュリズムの波に抗する

 

一昔前の派閥の長は時間をかけて自派閥の勢力を拡大していき、打算や信頼関係が交錯する中で派閥間の駆け引きにより連合を組んだりするのです。親分肌で清濁併せ呑むといった感じで、とても現代のSNS映えするキャラではありません。

最近はこのような古いタイプ政治家には不利な環境です。逆に新聞などのオールドメディアの衰退とネットメディアやSNSなどの影響力は民衆の一時的な強い支援を必要とするポピュリスト政治家にとっては有利な環境と言えるでしょう。

一部の発信力はあるが実績は少ない新しいタイプの政治家に支持が集中する現在の傾向は国の内外でポピュリズムのうねりとなり「政治経験の少ないリーダー」「力強いリーダー」「カリスマ性のあるリーダー」を生み出しています。

この新たな世界では実績がなくともイメージ先行の「大改革」を掲げ、一部の人の利益を強く守る言動、現実的でない理想論を声高に訴えるポピュリスト政治家に支持が集まりやすい傾向があります。非現実的な主張は政治経験が豊富になるほど経験と自己抑制からしなくなります。むしろ政治経験・実績の少ない者ほど自由に理想郷を喧伝でき、そして結果的に大きな支持を得るという問題を含んでいます。

安倍首相も石破氏もありがたいことに、このようなポピュリストタイプの政治家ではありません。ともに議員経験豊富でそれぞれ首相として大臣として多彩な政策分野で多大な実績を残してきました。今回の総裁選でそれぞれの陣営の一部には近年日本でも強い影響力を出している「風」「ブーム」といったものを興そうとする戦略を採用する考えもあったかもしれませんが、結果としてそのような動きが抑制されたことは自民党にとって良かったことだと思います。

 

今後の党内融和と小泉進次郎氏の判断

 

カリスマ性を基本とした政治は支持基盤が「信者化」しやすく、強い支援体制を構築する反面、選挙などで対立する勢力に対して精鋭化する傾向があります。安倍首相も石破氏もどちらかというと伝統的な自民党の政治家タイプで、決してポピュリスト政治家ではありませんが、安倍首相は長期政権により自然と権力者としてのカリスマ性を帯びてしまい、選挙期間中に陣営の一部が先鋭化した言動があったかもしれません。一方で石破陣営も選挙戦当初は政策以外の人間性などを喧伝するなど若干ポピュリズムを意識した戦略が見え隠れしました。感情に訴える選挙は確かに効果的なのですが、感情的になればなるほど選挙の後に「ノーサイド」にはならなくなります。

このように総裁選自体がポピュリズムの影響を受けようとしていた中で、小泉進次郎氏が誰を支援することを明言しないことにより選挙へのポピュリズムの影響を低下させたことは非常に意味のある行動だったと思います。自民党を「開かれた党」にするために総裁選を実施し、異なる意見にも耳を傾けるのは大切な反面、総裁選がより感情的になり両陣営がポピュリズムに走らないためには、自身の影響力を封印する必要があり、結果として石破氏支持を党員投票が終わってから表明するという判断は党にとっては非常に良かったと思います。バランスをとった判断は両陣営から「中途半端」と言われる可能性があり、党外からは「リスクを取らない」などと批判もされるでしょうが、党として一致して行動することを重視する側からすると、選挙後の党内対立を和らげるありがたい判断であったと思います。

当たり前のことですが、党の外の人間は自民党が分裂するのは面白いことくらいにしか考えませんが、党内の人間は自民党が分裂するような行動はなるべく慎むべきです。党内改革を推進することと党内亀裂を深めることは全く別物です。改革を推進するなかである程度対立などは発生するでしょうし、党が前に進むために妥協しないことも重要だと思います。しかし「嫌い」とか「やり方が気にくわない」などの感情的な部分で対立することは政策や本質的な組織論で対立することとは違って、結局は個人的な対立関係にすぎません。

今回の総裁選においてあえて辛口に論ずるなら、政策面で石破氏には国民の期待に応える「切り札」は見られませんでした。経済政策においては現状の諸問題を指摘するものの、デフレ対策と財政再建を両立できるような処方箋は出てきませんでした。地方創生も日本でも海外でも多くの試みが行われているにも関わらず結局は大都市への集中が進んでいる中、どれだけの期間をかけ、どれだけお金をかけてその流れに抵抗するのか、いまの日本にそれだけ余裕があるのか、など疑問が湧く内容でした。憲法改正も一見筋論を主張していますが、実質的に9条改憲は棚上げという後ろ向きと捉えられる内容でした。そもそも自民党の中でも保守寄りの安倍首相と石破氏には政策的、思想的違いは余りなくても不思議ではありません。政策面で決定的な違いがないと戦いはパーソナルな対立関係レベルになってしまい、支援者間の対立もより感情的になものになりがちです。

しかし、結果的に党員票で石破氏が半数に近い45%近く得票したことにより、今後の党員レベルでの融和が重要となります。総裁選後、石破氏や石破派をどう処遇するかといった国会議員のレベルの党内融和・挙党一致が注目されますが、重要なのは党員という自民党の支持基盤レベルでいかに「ノーサイド」「党内一致」ができるかということです。勝利した安倍首相陣営はもちろん、善戦という結果に高揚している石破陣営にも党内融和の責任はあります。

来年の統一地方選挙・参議院選挙はすぐにやってきます。再び自民党が一つになって勝利しなければなりません。

 


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